起立性調節障害とは
Q1起立性調節障害とはどんな病気ですか?
特に起こりやすい症状は、朝起きれない、朝の食欲不振、疲労感、頭痛、立っていると気分が悪くなる、立ちくらみなどです。
症状の程度は日によって異なり、天候によっても異なることが特徴のひとつです。また、一般的には春先から夏にかけて悪化します。症状は実に多彩で、寝つきが悪い、成績低下、イライラ、意識を失うなどの場合もございます。夜になると元気になり、スマホやテレビを楽しむことができます。就寝が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。
Q2だらだらして怠けているのではないですか?
起立性調節障害のこどもは、疲れてダラダラしているように見えます。とくに午前中にひどく、朝になかなか起きれません。
その理由は、起立性調節障害では自律神経機能が悪いために、起立時に全身への血流が悪くなり、その結果、様々な症状が出現します(図)。
起立性調節障害のメカニズム
とくに脳血流が低下すると、立ちくらみ、ふらふら、倦怠感だけではなく、思考力低下、判断力低下、イライラがひどくなります。この自律神経機能は午前中に特に調子が悪いため、登校しぶりやなまけのように見えますが、そのような見方は正しくありません。
Q3かかりやすい年齢はありますか?
有病率は小学生では5%未満ですが、高学年から増え始め、中学生では急増します。軽症を含めると、男子中高生では15-20%、女子中高生では25%前後にみられます。これらの原因ははっきりしていませんが、夜型社会や複雑化した心理社会的ストレスが関与しているかもしれません。
Q4どのような場合に受診した方がよいですか?
以下の項目のうち3つ以上当てはまる方や2つであっても日常生活に困り感がある方は受診をお勧めします。
- 立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
- 立っていると気持ちが悪くなる、ひどくなると倒れる
- 入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸あるいは息切れがする
- 朝なかなか起きれず午前中調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲不振
- 腹痛を時々訴える
- 疲れやすい
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
Q5診察の実際はどのようになっていますか?
起立性調節障害が疑われる場合は診断、タイプ、重症度を判定する目的で「新起立試験」を行います。
新起立試験は午前中に行うことが望ましく、診断は総合評価にて行われます。「新起立試験」は10分間ベット上で安静にしてもらいます。この間に心電図検査による心拍数測定および血圧測定を3回行います。次に10分間起立してもらい、血圧回復時間の測定と数分毎の心拍数と血圧の変化を記録します。
Q6日常生活や学校生活で注意することはありますか?
水分を多くとることが最も大切で、1日1.5-2Lを目標にします。塩分は積極的に摂取することが大切です。
寝た状態や座った位置から、急に立ち上がらないようにして、30秒以上時間をかけてゆっくりと立ち上がるようにして下さい。朝起きるときは、クッションなどを利用してゆっくり上体を起こしてください。頭を上げて立ち上がると脳血流が低下して気分が悪くなります。一度気分が悪くなると、なかなか気分が戻りません。早寝早起きなど生活リズムを正しくしましょう。だるくても日中は体を横にしないように気を付けてください。暑気を避けて、特に午前中の体育の授業は見学することも考えて下さい。
Q7どのような治療がありますか?
特にスイミングは身体にかかる重力が少ないので、おすすめです。起立性調節障害に効果のあるお薬があります。効果を感じるまでに1-2週間かかることが多いので、途中で内服を中断しないことが大切です。薬物療法だけでは効果が少なく、他の治療法を組み合わせることが大切です。その他、予防用具の利用も効果的で、足や腹部に血流がたまらないように、弾性ストッキングや加圧式腹部ベルトを使用します。
Q8いつ頃に治るのでしょうか?
「治る」を「身体症状があっても薬を服用せずに日常生活に支障が少なくなった状態」とすると、適切な治療が行われた場合、軽症例では数カ月以内で改善します。しかし、翌年に再発する可能性もあります。
日常生活に支障のある中等症では、1年後の回復率は50%、2-3年後は70-80%です。学校を長期欠席する重症例では1年後の回復率は30%であり、社会復帰に2-3年以上を要します。ただし、体力の見合った高校に進学した場合、高2-3年生になると90%程度 治ると考えられています。軽い症状は成人しても続く場合があります。
Q9朝起きが悪いのですが、起こしたほうがよいでしょうか?
朝起きが悪い理由には、次の3つがあります。
- 朝に交感神経の活性化が悪い、血圧が上がらないので、脳血流が維持できない。
- 午後から交感神経が活性化して、夜に最高潮となり、寝つきが悪くなる。
- 寝られないので遅くまで起きてしまい、また朝起きが悪くなる。
①〜③が悪循環になり、ますます朝起きが悪くなります。どれが一番問題なのか、まだわかっていませんが、①→③の順で病気が進むと考えた方がよいでしょう。
多くの家族は、③が一番問題だと考えてしまいます。軽症の場合には、声を掛けるだけでなんとか起きますが、中等症になると大声を出しても起きることができません。そこで夜に早く寝かそうとして、怒鳴ったり怒ったりするようになり、家族の方がイライラして、親子関係の悪化につながります。
①が一番の原因と考えましょう。いくら大きな声で怒鳴っても、よい結果になりません。
そこで…
朝起こすとき
- 何回か声かけをする、でも怒らない。
- カーテンを開けて朝日を部屋に入れ、布団をはがす。
夜
- 寝なくとも布団に入るように努め、消灯する。
Q10不登校が続いていますが、どうすればいでしょうか?
起立性調節障害に不登校を伴うことは珍しくありません。約半数に不登校を伴うと言われるほどです。
登校を邪魔する以下の要因に対して適切な対応が求められます。
- 朝に目覚めない、体を起こすことができない
Q9を参考にして下さい。体調が悪い時間帯に登校させると逆効果です。体力が回復してから登校を促しましょう。
- 遅刻するのは嫌、授業の途中では入りづらい、怠け者といわれそう
- 学校側の理解が乏しく、学校との信頼関係が損なわれている
②と③は学校関係者に起立性調節障害の理解を深めてもらい、受け入れ態勢を整える。また、医療機関から学校向けの診断書を作成して連携を図ることもあります。
- 周囲に気配りをする性格で、実は学校生活に疲れ果てている
- こどもの家族に対する抑え込んでいた甘えたい気持ちや反抗が不登校によって満たされている
④と⑤はいわゆる「不登校」のこどもと共通した心のメカニズムが働いています。精神疲労が強い可能性もあります。十分な休養が必要ですので、登校や学習刺激はしばらく控えるの が得策です。親の過干渉は、病気の治癒を遅らせます。